視線が抜けていく方向を想像しながら、どこに立てば何が見えるのか、どんな風が流れるのか。窓のかたちや高さを一つひとつ設計していく——そんな丁寧な仕事が、この空間には込められています。
リビングの奥に設けた横長のスクエア窓からは、松の木の向こうに小さな川が見えます。
空が広がる窓、ロフトの上から外を見下ろせる窓、光が壁に舐めるように広がる窓……。それぞれの窓が、異なる時間帯に異なる表情を見せながら、日常のシーンを切り替えるように空間を演出してくれるのです。
設計時に大切にしたのは、光や風の通り道を確保しながら、「その土地だからこそ開けたくなる窓」になっているかどうかということでした。
例えば、隣の敷地にあるミカンの木。その緑がちょうど視線に入る高さに窓を設けて、ほんの少しだけ“風景を借りる”ように空間に取り込む。そういった地味ながらも意図を込めた工夫の積み重ねが、この家の窓をかたちづくっています。
ある日この家を訪ねたとき、ちょうど路地を歩いていると、窓の向こうからお子さんが顔を出してくれました。
手を振る姿がガラス越しにふわりと現れて、こちらの心もふっとほぐれる。
「窓がつないでくれる」とは、こういうことかもしれないと思った瞬間でした。窓は、光を取り入れるための装置であり、風を導くためのものでもあります。
でも同時に、景色をつなぎ、人と人をつなぎ、空間を開いてくれる“装置”にもなれる。
住まいにとっての窓のあり方を、少しだけ見つめ直してみる。
それだけで、日々の暮らしのなかに、想像もしなかった風景が広がるかもしれません。