思考プロセスをクライアントと一緒に深めていくために、私たちが活用しているのがCGを用いたプレゼンテーションです。
建築中の空間に“入って”体験できるような視点を共有できるため、構造や間取りといったハードな要素も、感覚的に話しやすくなるのが大きなメリットです。
例えば「天井の抜け感」や「窓の視線」が、どのように見えるか。実際にその場に立ったかのように確認できるため、打ち合わせの段階で豊かなコミュニケーションが生まれます。
今回のプロジェクトでは、大きな窓や勾配天井、ロフトといった主要な骨格が決まったあと、内部空間をどう“見せるか”がテーマとなりました。
特に課題だったのが耐力壁の設置。構造的に不可欠なこの要素を、ただの制約として扱うのではなく、空間の魅力へと変換できないか。
そんな視点から、いくつもの案をCGで提案していきました。


柱梁を敢えて増やし森のような空間をつくる案、モダンな壁をつくり空間に溶け込ませる案、敢えて耐力壁を強調する案……
10以上の案から最終的に採用となったのは、耐力壁をリビングとダイニングの間に設けることで、広い空間にほんの少しの“分割”を加えるプラン。
空間が分かれることで逆に生まれる落ち着きをもたらし、密度の異なる心地よい空間をつくってくれると考えました。
工事が進み、構造が立ち上がってきた頃、クライアントがぽつりと口にした言葉があります。
「窓の高さも視線の抜けもCGで見た通り。この案にしてよかった。」
図面ではなく、体感で共有したからこそ、完成に近づく工程が自分ごととして感じられる。そんな瞬間に立ち会えるのは何より嬉しいことです。

ちなみにこのとき、クライアントが大切にしていた鳩時計をCGの壁に描き込んで提案したところ、場の空気がふっと和らぎました。
情報の提示だけではなく、家族らしさや愛着の種も一緒に描き込む。そんなプレゼンのあり方も、これからの家づくりには必要かもしれません。
誰かの「いい家」をなぞるのではなく、自分たちの「こうしたい」を言葉にしてかたちにしていく。
そのプロセスこそが、家への愛着や誇りを生むのではないかと考えています。